イカロスの不思議
2011年01月10日(月) 記 : アドバイザー

 皆さんが学校で学んだイカロスはギリシャ神話の中の青年かも知れませんが、ニュースのイカロスは昨年5月、JAXAの種子島宇宙センターから打ち上げられた宇宙帆船。昨年11月に、金星上空約8万キロを通過し、通信圏外に出たため、今は制御できませんが、イカロスの実証実験は大成功でした。今後は人工惑星として太陽の周りを回り続け、気楽な挑戦が続いています。なおイカロスは、金星衛星を目指した探査機、あかつきと一緒に打ち上げられました。あかつきは姿勢制御に失敗しましたが、6年後に金星衛星に再挑戦します。

 イカロスの帆は僅か7.5ミクロンのポリイミドフィルム製。一辺が14メートルの巨大な正方形。皆さんの教室以上の大きさです。膜の重さは僅か、200g程度。膜は薄くて丈夫です。帆はどら焼きのように、小さくたたんでロケットに積みます。帆を破損せず、宇宙空間で広げます。部品は全て軽量が条件です。この帆が生む光子の力で航行します。光子の力は1円玉の重力程度、極わずかな力。水の表面張力以下です。帆には、薄膜太陽電池が貼り付けられています。その発電能力で通信機や帆を動作させ、ハヤブサのイオンエンジンを搭載すれば、燃料を使わない、惑星間旅行も可能になったと実証されました。

 イカロスの言葉から微かな記憶が蘇ってきました。それはギリシャ神話です。鳥の羽をロウで張り合わせ、巨大な翼を作ったイカロスという若者。調子に乗り、太陽の近くまで飛び、ロウが溶け、墜落する話、です。無鉄砲だった私は「桂馬の高飛び歩の餌食」と言われ、「イカロスになるな」と教えられました。有名な絵画、「イカロスの墜落」(ピーテル・ブリューゲル(父)、 1557年頃)の絵は美術の教科書にあったのでしょう。覚えがあります。

 絵の謂れを調べてみたら、ギリシャ神話はギリシャ時代よりはるかに昔の伝承をギリシャ時代やローマ時代の詩人や作家がまとめたもの。ダイダロスとイカロスの親子がミーノス王の怒りを買い、迷宮に閉じ込められました。彼らは翼をつくり、空を飛んで脱出した話が基でした。イカロスは父の警告を忘れ、高く飛びすぎ、太陽の熱でロウを溶かされ、墜落死と、オウィディウスの詩にも歌われています。彼の詩はギリシャ時代ではなく、今の時代の感性にあっているのかも。このまま続けるときりがありません。ここで止めます。

 まとめです。成功を目指した最新技術の宇宙帆船にイカロスと名前をつけた理由が私には分かりません。本当に不思議です。太陽に溶かされ、帆が溶け、失敗することを予定していたのか。それとも冗談か。あまり期待していないプロジェクトだったのか。だから挑戦に成功したのかもしれません。それなら納得できます。真実は何時も不思議だからです。