嗅覚の不思議
2010年12月19日(日) 記 : アドバイザー

 視覚、聴覚ときたら、嗅覚を外す訳には行きません。嗅覚は非常に古い器官であり、 空気中の化学物質を鼻の奥の繊毛と嗅細胞が信号に変換し、神経細胞の活動に変換し、 大脳の嗅覚野で認識しています。視覚聴覚嗅覚に味覚と触覚を加え、私達は五感と呼ん でいます。直感を第六感と言います。長嶋監督の特長を表現する感ピュータは揶揄の言 葉ですが、感覚が5つだけでは少なすぎます。

 五感はギリシャ時代の哲学者、アリストテレスが用いた言葉です。今でも私達がギリ シャ時代の言葉を使っているのが不思議です。一方、仏教の唯識思想では人の感覚を五 感にプラスし、意識、潜在意識、心があると考えています。すなわち、知覚は八つある と考えられています。今日、脳研究者はさらに多くの感覚があると考えています。数は 研究者によって違います。私は素人、切りが良い数字の10あると思っています。何れに しろ、人は進化に応じ、捨てた感覚や増えた感覚があるのです。

 東大小石川植物園は、映画やテレビで有名な赤ヒゲ先生の遺産です。ここには、世界 最大の花で有名なショクダイオオコンニャクがあります。この花が今年の7月に咲きま した。独特な異臭を放ったそうです。その臭いは、人肉が腐った臭い。耐えられない臭 い。臭いの素はジメチルトリスルフィド、硫黄系の化合物。品格を疑われますので 、これ以上詳しく言えません。この花は臭いで昆虫を、特に臭いのが好きな甲虫類を呼 び集め、受粉に協力させています。これも生存競争のためです。

 私達の鼻の粘膜は臭いの素となる化学成分を酵素により一部分解し、元の成分と併せ 、固有の臭いとして感じています。人は酵素の量により同じ臭いの成分でも感じ方が違 います。酵素の量は体調でも、民族や育ちや過去の経験でも違います。臭いの感じ方は 色々です。非常にあやふやです。納豆の臭いに関西人は苦手です。外国の人は耐えられ ません。クサヤの干物は私の好物ですが、妻も子供も大嫌いです。アメリカでクサヤを 焼いたら、営業妨害か傷害罪で逮捕されるでしょう。臭いが強い、腐ったようなお豆腐 は台湾の名物料理ですが、私は勘弁してもらいます。臭いへの反応は慣れに強く影響さ れます。一般的に人は歳とともに酵素の働きが弱くなります。臭いに鈍感になると言え るでしょう。

 鼻の粘膜は、他の細胞にはあまり見られない、常に新しい細胞に置き換えられていま す。臭いを処理する神経は脳から直接出ている末梢神経です。嗅覚の神経は大脳の一番 前に結びついています。従って、嗅覚は極めて古い器官なのでしょう。嗅覚は危険な環 境を避けるために発達したのかもしれません。バクテリアは危険な薬品から逃げる学習 機能を持っているからです。その後、異性の発するフェロモンを感知し、種の繁栄に役 立つように進化したのでしょう。しかし、フェロモンを感知する能力を人は進化と共に 失ったようです。

 最近、若い人はフェロモンを補おうとしているのか、良い匂いの化粧品をたくさん自 分に振りかけています。しかし、人の嗅覚は退化していますが、フェロモンを感知する 能力を密かに持っているはずです。化粧品の良い匂いを振り撒くのは、逆効果かもしれ ません。