奥行き感の不思議
2010年11月03日(水) 記 : アドバイザー

 私たちの周りには三次元の世界が広がっています。パソコンの表示も三次元が自然の はずですが、立体的映像の制作には高性能コンピュータや二眼カメラが必要です。お金 がかかり、三次元コンテンツはあまり見かけません。一方、平面アニメや漫画のマル子 ちゃんも可愛らしく見えます。パトロールの隈取デザインの警戒感も不思議ではありま せんか。

 人の視覚は絶対的ではありません。心理状態や体調で感じ方は変わります。しかし、 誰もが美しい3Dイメージを頭の中で形成し易い表現があります。心理学の勉強は奥行 表現や立体的表現の勉強に役立ちます。視覚の特性を使い、二次元や手書きの絵を立体 感溢れた表現に変えられます。三次元を感じやすい特性を活用し、挽きつけられるプレ ゼン資料を創りましょう。

・簡潔性
 人は見たものを単純な連続的な物体と認知し、意識下で情報処理をし、外界を見てい ます。この機能を生かすため、簡潔な図形をプレゼン資料に多用しましょう。複雑な図 形は避けましょう。自然現象が提供する図形は複雑に見えますが、子供も花や木を上手 く描けます。自然現象の画像はフラクタルで説明できます。繰り返し図形は情報処理が 容易です。視覚はフラクタルを処理できているのかもしれません。

・空間周波数
 角のある部分に視点は引き付けられるため、全体は簡単な図形が基本です。簡単な図 形は立体感を得やすく、注目点を際立たせるために空間周波数の逆数を出現頻度にしま しょう。複雑な絵は多用せず、題名などの囲み枠は角を丸めます。しかし、簡易な図形 も注意が必要です。図形の特異方向から眺めた形は認識誤りに繋がるため、特異方向か ら見た表現は避ける方が安全です。

・明暗・陰影
 人は明暗や陰影から奥行きや立体感を得られます。二次元図形でも、囲みの図形に厚 みを加え、右下に陰を作ると、見やすい題名になります。文字の囲みが左上に飛び出す と良いようです。太古の昔、人は暗闇を苦手とし、朝日を待ちわびていたためか、南を 向いた姿勢で、左上から朝日が差し込む光景のプレゼン表示は聴衆に受け入れ易いのか もしれません。人は話し手の論旨に賛同してくれ易くなるでしょう。

・線遠近法
 一直線に続く道路を写真に撮ると、平行する左右の路肩と街路樹の先端を結ぶ線は1 点に収束します。これが絵画の一点消失の手法です。このような自然の光景が多く、人 は一点に収束する直線を平行線と認識し、奥行きを感じます。建物の絵画や図画の二点 消失の手法もあります。美しい建物を表示するになら大胆な二点消失が良いようです。 浅い奥行きによって立体表現すると、美しい建物になります。三次元空間の建物は天空 に向かう消失点があるはずですが、この図形は特異な印象を与えるでしょう。人の空間 感覚はユークリッド直交空間ではなく、天空が潰れた、歪んだ三次元空間なのかもしれ ません。天空への立体表示は浅い奥行きに留めたほうが安全です。魚眼レンズや接写レ ンズの画像は強い印象を与えられますが、表現に採用するのは注意が必要です。

・肌理の勾配
 等間隔の道路や電柱などの横線を持つ畑や平原を写真に撮ると地平線に近づくにつれ て見かけの間隔が狭くなります。この表現方法が肌理の勾配です。肌理の勾配をもった 平面画像は見る人に奥行き感を与えられます。水田や広いテーブルの表面や部屋の床な ど、広い空間を表現するのに適しています。ケンブリッジ大学の図書館の床はバックギ ャモン盤のような図形があり、圧倒的な立体感をイメージさせてくれます。

・霞かけ
 霞かけは、遠くにあるものをぼかして描き、手前にあるものをはっきりと描く手法で す。奥行き感を与える基本の手法であり、実際に外の景色を眺めると、遠くのものは霞 がかかって、ぼやけて見えることを応用した方法です。水墨画や富士山の絵にしばしば 用いられています。絵画ばかりでなく、フランス映画や黒澤監督が得意な手法でした。 写真画像をフォトレタッチ処理して、後ろにある物体をぼやかして表現すると立体感あ るイメージを容易に生み出せます。

・重畳
 後ろにある物体は前の物体で隠されます。人は隠れた図形は連続と見ます。二つの図 形が重なる部分で一方の図形を消すと、消された図形は後方にあるように感じられます 。後方にある物体は前方にある物体に隠されて見えないと、視覚が認知するからです。 ゲームソフトが使ってきた、スプライト手法はこの応用です。

・相対的大きさ
 同じ大きさの物体であっても、遠くの物は小さく見え、近くの物は大きく見えます。 この日常体験があるため、人は二次元の相似な図形の大小によって位置を感じています 。しかし、この特性のため、軽自動車の交通事故が増えているのかもしれません。お年 寄りは目が衰えているため、遠近感を感じ取ることが苦手です。軽自動車はライトの間 隔が大型車より小さいため、夜間、お年よりは軽自動車の距離を実際以上に遠くに認識 してしまいます。渡れると思った横断歩道も間に合わず、うっかり運転手の事故につな がっています。

・騙し絵
 表示装置の枠から飛び出した絵は視覚が混乱し、人は疲れます。表示装置の枠にかか る、枠より前の図形を定義してはいけません。枠の後ろの絵が、枠に隠れた絵が無難で す。逆に、枠からはみ出した絵が騙し絵の基本テクニックです。手前の物体が枠からは み出した絵は立体感を得易く、表示画面の中に窓枠を描き、中の枠からはみだした絵を 描くと立体感を容易に与えられます。 人は平面図形の中に現実の形状を重ねて見てい ます。これは幾何学的な形状を認識する人間の基本的な脳の構造と関係しています。